2020年以降、外食産業においては「新型コロナウイルス感染症」の拡大が大きな逆風になっています。これまでも日本の外食業界はリーマンショック(2008年)や、東日本大震災(2011年)などの困難を経験し、その都度乗り越えてきましたが、今回の影響はリーマンショックなどの比ではありません。
多くの飲食店・レストランが大幅な売上減に苦しむだけでなく先行きの不安を強く抱いていることと思います。
このような状況下においても成長が続いている市場がファストフードとテイクアウトです。消費需要のパーソナル化が進み、利便性の良さが最優先で求められる流れは恐らく今後も続きますが、この両市場はともに条件ニーズを満たしています。
ファストフード市場の魅力は、そもそも市場が成長しているということと、新型コロナウイルス禍中にあって成長が加速しているテイクアウト市場の両市場をカバーできるという点です。
テイクアウト市場の強みは、外出の自粛要請によって多くの飲食店の売上が無くなる中で急成長している「巣ごもり需要」を獲得出来ている点です。ネット通販にしても、テイクアウトやデリバリーにしても、新型コロナウイルス感染症が始まる以前から、すでに成長トレンドであり、特に中食市場は昨年の消費税増税による軽減税率制度の導入に伴って、フォローの風が吹いています。フードデリバリー専門の配達業者も増加し、チェーンをはじめとする飲食企業では、テイクアウトやデリバリーを大きく打ち出す店も出てきています。
この流れは、ウイズコロナ(コロナと共にという意味)期においても継続成長すると考えられます。今ある経営資源を生かして、テイクアウトやデリバリーに進出する道を、積極的に探求することが時流に乗った経営判断と言えるでしょう。
事業が成長軌道に乗っているときは、効率よく成長できるため経営資源をその分野に集中しがちです。外食産業は東日本大震災以降の10年近く、今回のような不確定要素による大きな波もなくいわば安定的な時期を過ごしてきました。そのため、経営におけるリスク分散という視点が弱くなっていた会社様も多いのではないでしょうか?
過去、2001年にBSE(牛海綿状脳症=狂牛病)が発生したとき、焼肉業界は深刻な打撃を受け、東日本大震災のときは特に東北エリアの店舗が危機的な状況に陥ったことからも伺えるように、単一業態での展開や同一エリアのみでの出店は、こと飲食業界においてはリスクが高いです。
そして、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大も、インバウンドや大規模宴会へ過度な依存をした場合のリスクが浮き彫りにしました。そういった観点から見れば今この瞬間こそが、今後想定外の出来事が起きても「事業の継続性(BCP)」を担保できるように、リスク分散の観点で経営を見直す機会と言えます。
現在起こっている「消費者の行動変容」を観察し、事態収束後の世の中を想像すると、次のビジネスの展開が見えてきます。例えば、出勤自粛やリモートワークなどこれまで限定的だった動きは、コロナ収束後も定着化する可能性が高いです。オフィス街や繁華街での宴会などは、オフィスに出勤してこその需要であり、このような立地の飲食店はコロナ収束後も完全な需要回復になるかどうかが不透明です。
こうした変化を踏まえ、自店・自社の強みを生かして、新たな収益の柱を模索することが、今求められており、それを構築することができればリスク分散や事業の永続性に繋がります。具体的な提言としては、思い切って事業展開立地をシフトすることです。
Ex.)繁華街SC ⇒ ローカル路面へシフト
一級都市(東京など)⇒ ローカル都市へシフト
繁華街空中階⇒郊外ロードサイドへシフト
繁華街SCからのローカル路面立地へのシフト、一級都市(東京など)からローカル都市へシフト、繁華街空中階から郊外ロードサイド立地へシフトといった、「立地シフト」が必要になりました。そして、「立地シフト」に伴って、どのような新業態開発を進めるのがこれからの「時流適応」と言えるのでしょうか。
その答えの一つとして注目なのが、テイクアウトにも強い「ファストカジュアル業態」です。
ファストカジュアルとは、ファストフードと接客サービス付きレストランの中間にあたるポジションを取る業態で、セルフサービスの要素を持ちながら、質の高さも兼ね備えたモデルです。私たちは『付加価値付きファストフード』とも呼んでいます。
ファストカジュアル業態に盛り込むべき付加価値の要素として、わかりやすいのは、オープンキッチンによる調理実演です。調理場を見せることで、お客様に安心感や楽しさ、美味しさ感を与えること付加価値となります。あらかじめ作り置きしたものを提供する従来のファストフードとは一線を画し、目の前で「できたての料理」を作り、「できたて」が食べられるということは大きな付加価値として、大手ファストフード店との差別化にも繋がります。
第1章でも触れたように、ファストフード市場にしても、テイクアウト市場にしても、新型コロナウイルス感染症が始まる以前からも成長トレンドでした。ファストカジュアル業態の最大の魅力は、新型コロナウイルス禍中にあって成長が加速しているこの両市場を“両取りできる”という点です。その成長市場の中において長寿ビジネスとするためには「わかりやすい差別化」が必要なのです。
丸亀製麺は世界に羽ばたく日本を代表する「できたて」を付加価値としたファストカジュアル業態ですが、このコロナ禍の中で「うどん弁当」という新商品開発を行い、テイクアウト市場を大きく開拓しています。同社の決算資料を見ていても「うどん弁当」の業績への貢献インパクトは非常に高いようです。成長する両マーケットを獲得している好事例として学ぶべき点が多いのではないでしょうか。
飲食業界を取り巻く背景としては、短期的にはコロナ禍で有効求人倍率は低下しているものの、中長期的には少子高齢化が進む日本において、生産性の高いビジネスモデル開発は今後も重要です。従来から飲食店の課題の1つとなっていた生産性向上の仕組みづくりは、この機会に本格的に注力していくべきだと思います。
ファストカジュアル業態を開発する上で、高生産性ビジネスモデルへ昇華させるための成功ポイントは「専門店」の顔を持たせることです。専門店シフトはこれからの飲食店経営において非常に重要な戦略となります。何故なら専門店として開発するということは、必然的に調理オペレーションや食材マネジメントがシンプルになるということを意味するためです。
総合型居酒屋や総合型ファミリーレストランのように様々な調理ラインを持ちながら、幅広い食材を抱えながらの営業を行うスタイルにおいて、生産性を高めることは至難の業です。「専門店」として新規業態開発を行うことで、調理ラインは縮小され、仕込み負担も軽減され、食材の管理もシンプルになるのです。
オペレーションがシンプルになるためアルバイト中心の運営が可能となり、人件費も低く抑えることが出来ます。
また、設備面に関しては、来店客のスマホで注文するモバイルオーダー、タッチパネルを使ったオーダーシステム、券売機の導入、厨房や配膳の機械化などを検討するなど、デジタルや設備への投資も必要です。
店内レイアウトという観点では、差別化という観点での「できたて訴求(=調理実演)」に加えて、料理提供やバッシングなどをお客様にセルフでやっていただく方式にするなど、高い生産性を実現する店舗レイアウト設計にチャレンジしてみるのも良いでしょう。
これからの飲食店経営において重要な視点になるのは「専門店」の顔を持たせることです。「専門店」の顔は集客力を高めるのみならず、オペレーションをシンプルにすることにつながるため、業態コンセプトに組み込むべき非常に重要な視点です。
地方ロードサイド立地での業態開発で重要になってくるのが立地と店頭です。キーワードは、店頭視認性の高さと固定費の低さです。
店頭視認性の高さは、集客力に直結します。可能な限り看板は大きな面積で製作し、車を運転しながら、100m手前からでも一目で何屋さんなのか?予算感はいくらくらいなのか?がわかりやすい店頭づくりが重要です。また、ファストカジュアル業態は昼夜同一メニューで集客を図る業態ですので、店頭看板の照度は他店と比較した時に目立つ明るさで通行客へアピールすることが重要です。
固定費は低いほうがその後の運営が大きく楽になるので初期投資は抑え、家賃は相場よりも安い条件を選択したほうが、経営資源をフード原価(集客につながるコスト)に投入しやすくなりますし、損益分岐点も低くなるため重要です。コロナ禍によって、賃料交渉はしやすくなっているため、郊外にはチャンスがあると思います。ただし、飲食店ビジネスにおいて、特にファストカジュアル業態においては立地は重要な要素ですので、商圏内において良い立地エリアの中で妥協せずに物件は探索いただきたいと思います。
また、郊外ロードサイド立地での業態開発の際に気を付けたいポイントとして、お客様からの比較対象として大手ナショナルチェーンが競合ライバル店に挙がってくる点です。対策としては、規模や資金力で上回る大手他社に対して、大手がやりきれない(嫌がる)戦略を1点突破で突き詰めることで、大手に包み込まれない独自のポジションを構築することが、中小企業の勝ちパターンになります。つまり「差別化」が組み込まれた業態コンセプトを作ることが大切です。
大手レストランチェーンとの差別化として、「調理ライン」と「高付加価値」がキーワードとして挙げられます。
第4回のメルマガでも触れたように、調理オペレーションや食材マネジメントをシンプル化させるためには、調理ラインを絞り込む必要があります。大手レストランチェーンは多店舗展開を前提として業態を開発することもあり、そのほとんどがマーケットサイズの大きな業態である「から揚げ専門店」や「とんかつ専門店」など、調理ラインが1つだけの専門店となっています。
私たちがご提案するファストカジュアル業態は、この調理ラインを2つ持たせることで「差別化」「大手とのわかりやすい違い」をつくり出しています。その際、マーケットサイズの大きなメニューラインに加えて、顕在化していないものの潜在的な消費ニーズが存在する専門店のメニューラインを付加することで、「独自固有の専門店の顔」を作り出すことが可能となります。
また、大手レストランチェーンがやりたがらないという意味では、オープンキッチンでお客様の目の前で調理実演の要素を加えたり、チルド食材を使うなど、お客様にとっては価値ではあるが、大手レストランチェーンはやりたがらないことは事業の長寿化につながる大きな差別化ポイントになります。
付加価値の高い商品を「客単価1,000円以下」の価格ゾーンに設定することで、ファストフードともホールサービス付きレストランとも異なりポジショニングが可能となります。「事業立地の転換」という観点で皆様の今後の成長事業として研究いただければと思います。
新型コロナウイルスの影響によりイートイン中心の飲食・レストラン事業への売上回復については、やはり立地や業態によっては時間のかかるものや、今後の売上回復がなかなか見込みにくい利用動機や時間帯も現実的にはあるかと思います。
ファストフード市場はコロナ前から成長市場でありましたが、今回を機によりテイクアウトの比重を高めながら伸びていくと思われます。
この成長市場において大手レストランチェーンと差別化を図りながら事業展開する上で注目したいのがファストカジュアル業態です。
ファストカジュアル業態とは大手牛丼チェーンや、ハンバーガーチェーンといったファストフード事業より少し上の価格帯で付加価値をつけながら商品提供する業態をいいます。
また、「専門店」形態であるため、キッチンオペレーションが非常にシンプルです。さらに従来のレストラン業態では必要だったホールスタッフの業務を「お客様にやっていただくセルフスタイル」とすることで省人化を図っているため、店全体の運営人数を最小限にて継続することが可能です。これらによって、低損益分岐点構造の事業モデルとなり、コロナ禍においても黒字確保が可能となります。
胃袋の消費地が、自宅近く、地元で、ローカルで、といった立地シフトが起こっている中で、さらに、より気軽に美味しいものを食べたいというお客様ニーズに対応した「ファストカジュアル業態」についてぜひ注目し、研究してみてくださいませ。
船井総研では毎年非常に多くの新業態開発、新規ビジネスの立ち上げ、開業の支援をさせていただいております。
まずはオンライン方式で無料経営相談をご活用ください。
・どのような背景で
・どのような考え、想いで
・どのような場所で
・どのような店舗規模で
・どれくらいの投資金額で
・どんな企業力や経験、長所と持たれているのか?
・どのような焼肉店を新規開業したいのか?
お聞かせいただければと思います。
そのうえで、どのようなビジネスモデルに取り組むのが成功確率が高いのか?失敗しないための事業開発はどこを押さえるべきなのか?お話しさせていただきます。
そのうえで、新規ビジネス開発・出店に向けてのコンサルティングをさせていただける場合は、下記のような内容で開業コンサルティングをさせていただいております。
①業態コンセプトの設計提案
②商圏調査・物件診断
③メニュー構成の提案
④仕入先のご紹介
⑤内外装・店舗レイアウトの提案
⑥販売促進活動の提案(WEB・SNS・紙など)
⑦各種研修のサポート
⑧開業後の売上アップ・事業発展・多店舗展開サポート
⑨人財開発
⑩デジタル化対応
ぜひ、新規開業や新しいビジネスモデルの開発、既存店舗の業態転換など、飲食店の経営に関するご相談がありましたら、お気軽にお問合せ下さい。