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クラフトビール、クラフトジンに次ぐ第三のクラフトシリーズ、クラフトサケとは?
「クラフトサケ」と呼ばれるお酒をご存知でしょうか?
クラフトサケとは、日本酒(清酒)の製造技術をベースとして、お米を原料としながら従来の日本酒では法的に採用できないプロセス(製造の方法)を取り入れた、日本酒のルールに縛られない、”自由で多様なお酒です”。
「どぶろく」のような、日本酒における「搾り(お酒と酒粕を分ける工程)」をしないお米が混ざった状態のお酒もクラフトサケの1つですし、フルーツや野菜、ハーブなどの副原料を使った新しい味わいのお酒もクラフトサケです。(クラフトサケ協会HPより)
なぜクラフトサケなのか
日本酒(清酒)の製造技術をベースに…と書いていますが、ベースにするのではなくそもそもなぜ清酒を造らないのでしょうか?その理由は免許と大きく関係しています。
お酒を造るためには、国税庁によって発行される酒類製造免許が必要です。様々な申請書類を所轄の税務署に提出し、4か月程度の審査によって十分に製造・販売ができると認められて初めて、お酒を造ることができるのです。
しかし、現在日本では清酒の製造免許の新規発行(いわゆる新規参入)は認められていません。これは国内における需要と供給バランスの調整のためです。清酒の国内消費量が減少を続ける中、既存酒蔵の供給量を可能な限り維持・保護することが狙いとされています。一方で、日本の伝統文化であり、海外からの「Japanese Sake」として高い評価を受けている清酒を自分たちの手で造りたい…と考える企業は少なくありません。
そのため新規参入として清酒造りを始めたい企業は、国内の既存酒蔵から免許を買い取るか譲り受けることによって、清酒造りを実現させています(その他では他社に製造を委託するOEM形式など…)。
しかし、既存の製造免許を入手することは容易ではありません。そこで、清酒を造るのではなく、清酒に似ており、かつ清酒よりも自由で多彩なお酒を造る…という動きが近年出てき始めました。それがクラフトサケなのです。
法改正によって輸出に限っては清酒製造が認められるように!
2020年、清酒のブランド化、ブランド価値の確保・向上を図り、清酒の輸出拡大に向けた取組等を後押しするため、一定の条件の下で、輸出用の清酒を製造する場合に限って一部の要件を緩和して製造が認められるようになる「輸出用清酒製造免許」の発行が始まりました。需要と供給の調整のために、清酒製造免許の新規取得が不可能だった酒造業界において、新しく清酒が造れるようになった今回の税制改正(事実上の規制緩和)によって、清酒に注目が集まっています。まだ発行数は多くありませんが、清酒はクラフトサケとほぼ同じ製造設備で造ることができるため、その他の醸造酒免許(後述)と併せてこの輸出用清酒製造免許を取得し、清酒を輸出しているクラフトサケ醸造所も複数存在しています。通常の清酒製造免許では年間60㎘という最低製造数量が定められていますが、輸出用清酒製造免許では最低製造数量の制限がないため、取得のハードルも若干ですが下がっているのが特徴です。
日本産酒類の輸出拡大の波にクラフトサケも乗れる
2023年における日本産酒類の輸出金額は1,350億円であり、2021年に大台の1,000億円を突破して以降、高い水準を保ち続けています。品目としては、ウイスキー(約501億円)・清酒(約410億円)・ビール(179億円)の輸出金額が特に高く、アメリカや中国を始めとした東アジア圏への輸出が盛んです。日本文化の浸透・日本食レストランの海外進出が進んでいることを背景に、日本独自の「和」の文化を感じやすい清酒が品質も含めて海外で高く評価されています。クラフトサケについても清酒同様に海外での展開が進んでいます。特に既存のクラフトサケ醸造所では台湾、シンガポール、香港、中国といった東アジア圏への輸出を多くされておられます。今までの清酒とはまた違ったオリジナリティ溢れる風味が評価されている事は間違いないでしょう。
クラフトサケはどのお酒に分類される?
クラフトサケは酒税法上の区分として、「その他の醸造酒」に分類されます。
一般的に”日本酒”と呼ばれるお酒は酒税法上の区分では「清酒」に該当します。
(以下、国税庁HPより抜粋)
三 「清酒」とは、左に掲げる酒類をいう。
イ 米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの
ロ 米、水及び清酒かす、米こうじその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(イ又はハに該当するものを除く。)。但し、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量をこえないものに限る。
ハ 清酒に清酒かすを加えて、こしたもの
国内のクラフトサケ醸造所では、清酒の製造方法をベースとしていますが、清酒の製造免許は持っていません。その代わりに、上記の清酒の定義から外れるような製法・原料を用いることで、「その他の醸造酒」というカテゴリで自由で創意工夫に溢れるお酒を造っているのです。具体的には、米、米こうじ及び水を原料として発酵させていますが、こす(上槽・搾る)工程を経ない、いわゆる「どぶろく」と呼ばれるお酒や、米、米こうじ及び水に果物や野菜、ハーブ・スパイスのような副原料を添加したお酒などが挙げられます。
※国税庁が定める正式な定義としては、「穀類、糖類等を原料として発酵させたもの(アルコール分が20%未満で、エキス分が2度以上のもの)」がその他の醸造酒であり、清酒やビール・発泡酒・果実酒のようなカテゴリ以外の醸造酒(酵母によってアルコール発酵させたお酒)が該当するイメージです。
クラフトサケ醸造所の開業のポイントは?
①醸造設備の選定
クラフトサケを造るうえで、必要になってくる主な醸造設備をご紹介します。
ーーー
洗米器…主原料であるお米を洗う設備。
甑(こしき)…お米を蒸す設備。
製麴室・機…麹を作るための設備。木製やステンレス製の部屋(室)を設ける場合と、コン
パクトな自動製麴機を使う場合があります。
仕込みタンク…酒母をタンクに入れ、麹、蒸米、水を加えて発酵させる設備。
圧搾機…仕込みタンクで発酵を終えた状態である、醪(もろみ)を圧力で搾ることで酒と酒
粕に分離させる設備。どぶろくの場合は、圧搾機を使わず、醪の状態で提供します。
充填機…出来たクラフトサケを瓶に詰める設備。
ーーー
醸造設備を選定する上では、年間で最大どれぐらいの量の造り、一回の仕込みでどれぐらいの量のお米を使うのか…によって、設備のサイズ感や必要な設備が異なります。目指す売上の計画を立てたうえで、醸造設備問屋や酒造経験者等専門家に相談するのが良いでしょう。選定する設備の種類や規模感次第ではありますが、目安として1,500万円~の設備費用を見込んでおくと良いでしょう。
②物件の選定
どこでクラフトサケを造るのか、物件の選定もポイントになってきます。お酒を造るだけならば、ある程度の広さがある物件であればどこでも良いのですが、店舗で直売をメインに売上を立てていきたい…とお考えであれば、立地選定は慎重に行うべきです。と言いますのも、直売で売上を作るためには、集客ができる立地で開業する必要があります。分かりやすい例として、大都市の繁華街や国内の観光地での開業がおすすめです。逆に、しっかりした卸の販路をお持ちの企業様であれば、比較的家賃を安く抑えられるような都市部・観光地から離れたエリアでの開業も十分検討できます。
新築・居抜きや、敷地の広さに左右されますが、建築費用の目安として2,500万円~を見込んでおくと良いでしょう。
③製造免許の取得
先述の通り、クラフトサケのようなお酒を製造しようとする場合には、酒税法に基づき、製造所があるエリアの所轄税務署長から「製造免許」を受ける必要があります。今回、クラフトサケを製造するためには「その他の醸造酒製造免許」が必要です。免許を受けるうえでの基本的な要件は下記の5つです(下記、国税庁HPより抜粋)。
1.人的要件
取得する企業が素性が問題ないかをチェックされます。
1号…酒税法の免許又はアルコール事業法の許可を取り消された日から3年を経過していない場合(酒類不製造又は不販売によるものを除きます。)
2号…法人の免許取消し等前1年内にその法人の業務執行役員であった者で、当該取消処分の日から3年を経過していない場合
3号…申請者が未成年者でその法定代理人が欠格事由(1、2、7~8号)に該当する場合
4号…申請者等が法人の場合で、その役員が欠格事由(1、2、7~8号)に該当する場合
5号…製造場の支配人が欠格事由(1、2、7~8号)に該当する場合
6号…免許の申請前2年内に、国税又は地方税の滞納処分を受けている場合
7号…国税・地方税に関する法令、酒類業組合法若しくはアルコール事業法の規定により罰
金刑に処せられ、又は国税通則法等の規定により通告処分を受け、その刑の執行を終わった日等から3年を経過していない場合7号の2…二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律、風俗営業等適正化法(20歳未満の者に対する酒類の提供に係る部分に限ります。)、暴力団員不当行為防止法、刑法(傷害、暴行、凶器準備集合、脅迫、背任等に限ります。)暴力行為等処罰法により、罰金刑が処せられ、その刑の執行を終わった日等から3年を経過していない場合
8号…禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わった日等から3年を経過していない場合
10号…破産者手続き開始の決定を受けて復権を得ていない場合
2.場所的要件
お酒を製造する場所についても決まりがあり、「正当な理由がないのに、取締り上不適当と認められる場所に製造場、または販売場をもうけようとする場合」には免許が下りません。
9号…正当な理由なく取締り上不適当と認められる場所に製造場を設置する場合(酒類の製造場又は販売場、酒場、料理店等と同一の場所等)
3.経営基礎要件
申請者の経営基礎が薄弱であると認められる場合には、免許交付が難しくなります。
経営の基礎が薄弱とは、申請者が事業経営のために必要な資金の欠乏、経済的信用の薄弱、製品または販売設備が不十分、経営能力の貧困等、経営のモノ・ヒト・カネに欠陥があり、酒類の製造者の販売代金の回収に困難をきたす恐れがある場合を指します。10号…経営の基礎が薄弱であると認められる場合(国税・地方税の滞納、銀行取引停止処分、繰越損失の資本金超過、酒類の適正な販売管理体制の構築が明らかでない等)
4.需給調整要件
酒税法では、需要と供給バランス維持のため、年間最低製造数量が定められています。
その他の醸造酒の場合、年間6㎘(=6,000ℓ)の製造が義務付けられており、免許申請の段階で、「本当にその数量を製造できる設備なのか」「本当にその数量を販売できる見込みがあるのか」がチェックされます。
11号…酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため免許を与えることが適当でないと認められる場合
5.技術・設備要件
異業種企業からの参入の場合、本当にお酒を作る技術を備えているかどうかもチェックされます。酒造経験のある人材を採用するか、醸造研修等を通じて技術を習得する必要があります。
12号…酒類の製造について必要な技術的能力を備えていないと認められる場合又は製造場の設置が不十分と認められる場合
まとめ
クラフトビールやクラフトジンといった、大手酒類メーカーが販売するお酒と一線を画すような高付加価値商品の人気が出てきている今の時代だからこそ、クラフトサケも大きく注目されるようになっています。一方で、ビールやジンと違って、国内のプレイヤーの数は決して多いとは言えません。逆に言えばブルーオーシャンの市場であり、先行して新規参入するメリットが他の商品よりも非常に大きいのがクラフトサケの特徴です。
新規参入するならば今がチャンス…と言えるでしょう。
醸造所開発支援を行っているコンサルタントとしては、日本各地に強い競争力、高い商品力をもったクラフトサケメーカーが立ち上がっていくことが酒造業界の発展のためにもなると考えております。そのための醸造所開業のトータルサポートを弊社で行っておりますので、ご興味のある方や既存事業との親和性について気になる方は、ぜひお気軽にお問合せください。
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